見出し画像

新規事業創造は、地図を持たずコンパスを頼る旅のようなもの ~安心・安全カルチャーの鉄道会社が畑違いの事業を育てるまでの道のり~ 第1話

こんにちは。小田急電鉄 デジタル事業創造部(デジソー)の部長を務める久富と申します。
これまでチームの立ち上げから関わってきた学びを何回かに分けてシェアしたいと思います。

今回は、私たちの新規事業開発の経験談を通じて、
新規事業専門部署に配属になったが、何をやってよいかわからない人
に少しでもヒントになるお話ができればと思います。
これは、
自分がどんな仕事をするべきかキャリアに悩んでいる人
にもつながる話なのではないかと。


私たち小田急の、デジソーにおける新規事業開発は、2017年のスタート以来、8案件を事業化し、複数の案件が実証中ですが、最初から明確に手掛ける領域(目的地)が決まっていたわけではありません。

「一体何を目指しているんですか?」
そう聞かれることも多くありました。時には社内から疑問の声が上がることもあり、目指す方向はこれで良いのだろうか? と自問自答することも多々ありました。

ぼんやりした何かに向かっていくと未来が見えてくる…
そんな道を歩んできたように思います。


なぜ新規事業に取り組み始めたのか

小田急の事業は、鉄道をはじめとする運輸業、不動産業を中心に、事業展開はほぼ小田急沿線エリアに集中しています。
しかし、コロナ禍で鉄道の輸送人員が大幅に減少し、それに伴う新たな事業の柱が必要だと痛感しました。

生活様式が変化し、安定していると思っていた事業がそうではなくなった。そんな予期せぬ変化に対して、柔軟に新しい道を切り開かなければならなかったのです。

最初にゴールは描けない

「新規事業はどの領域にフォーカスしているのですか?」
よく質問されるのですが、最初から「ヘルスケア」や「エネルギー」といった特定の分野に絞るのではなく、私たちはもっと抽象的な目標を掲げました。

それは、「社会課題の解決」というぼんやりした姿です。

具体的な事業領域を明確に決めることなくスタートし、進む中で見えてきた課題に向き合っていく。その柔軟なアプローチこそが、新規事業開発における鍵だと感じています。

最初にゴールと計画を定め、無駄なく、着実に進めるためにPDCAが大事なのはわかります。
でも、未知の領域に踏み出そうとしているのに、最初にゴールがあるって違和感がないか? その計画はどこから来たのか? その計画を外れたものは全て意味のないものなのか?

タイトルで「新規事業は地図を持たずコンパスを頼る旅」と表現した理由はここにあります。
ゴールがはっきりしていて、そこまでの道のりを教えてくれる地図があるのではなく、方向性を見据えて道を探しながら進んでいく、そんな風に歩んできた私たちの姿を表しています。

小田急沿線エリアは日本の社会課題の宝庫

小田急沿線は、都市的な側面を持ちながらも、自然にも恵まれた多様なエリアが広がっています。新宿という世界一のターミナルから、高齢化が進む団地、箱根をはじめとする観光地、そして山や川、海といった自然資源。まさに、日本の縮図のような場所です。
こうした地域には、さまざまな社会課題が潜んでおり、新規事業開発に挑戦するには恵まれたフィールドです。

小田急沿線は日本社会の縮図

そこで私たちは、地域の課題解決にフォーカスしつつ、ビジネスモデルは小田急沿線外でも展開できる事業の開発を目指しました

内側と外側が浸透する

新規事業開発において重要なのは、「自分達は何をなすべきか?」と内面に向き合うだけではなく、外部からの刺激にも柔軟に対応することです。
哲学者の谷川嘉浩さんが著書で「内側と外側が浸透し合う」という視点を示唆されています。これは、自己のモチベーションは外部からも影響を受けるという個人の話ですが、組織にも当てはまると実感しています。

小田急の内側にあるモチベーション「コロナ禍で基幹である鉄道事業が大幅に減収となったので新たな事業が必要だ」「沿線エリアには解決すべき社会課題がたくさんある」だけでは、新規事業創造の取り組みはドライブしなかったと思います。

最初は必要に迫られる形で新規事業開発を進めた私たちでしたが、まず動いてみて、課題と出会い、地域からの信頼などこれまで気づかなかった小田急の強みを認識し、自分たちが出来ることを柔軟性を持って学んでいきました
外側のあっちこっちにあったモチベーションの芽を集めていくことで事業が生まれていったと感じています。

たどり着いた地

2017年からの取り組みを経て、2021年に廃棄物の収集運搬の効率化を支援するサービス「WOOMS(ウームス)」を、2022年度に入って山林の獣害問題に取り組む「ハンターバンク」、自治会・町内会の地域コミュニティの活性化に取り組む「いちのいち」を相次いで事業化しました。
これらの事業は、いずれも地域の小さな課題に向き合いつつ、解決策は全国にスケール可能なビジネスモデルを構築しています。

社会環境の変化により、地域住民のニーズも多様化し、自治体が対応しなければならない政策課題が増えているものの、財政的な余裕も人手も足りない。そんな自治体や地域の困りごとを支援していきます。

「自治体や地域の困りごとを支援する事業」群

結びに

今、私たちは一旦、たどり着いた「自治体や地域の困りごとを支援する事業」群を充実させることに注力しています。
次にどんな事業が生まれるのか、どんな新しい挑戦が待っているのか、それはまだ明確ではありません。
その過程を楽しみながら、少しずつ進んでいきたいと考えています。

この記事を読んで、少しでも「自分もできるかもしれない」と感じてもらえたら嬉しいです
そして、皆さんが抱えている疑問や悩みに対するヒントが、どこかに見つかることを願っています。

次の機会では、新規事業創造における鉄道会社ならではの人材育成や風土づくりについて、さらに深く掘り下げてお話ししたいと思います。

なお、タイトルにある「地図よりコンパス」の例えについては、伊藤穰一さん(元MITメディアラボ所長)が提案された、変化の時代を生き抜くための「9つの原則」から引用させていただきました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これからも、私たちデジソーの想いや取り組みを発信していきます。ぜひ、「スキ」や「フォロー」をいただけると、とても励みになります。

※デジソー(デジタル事業創造部)にご関心をお寄せいただき、引用・拡散していただくことは大歓迎です。報道関係者の方からのご取材も大歓迎ですが、最新の情報を必ずご確認いただきたく、ご一報いただきますようお願いいたします。